東京高等裁判所 昭和28年(ネ)948号 判決
控訴人等は被控訴人に対し各自金三十五万円及びこれに対する昭和二十六年十一月四日以降完済まで年五分の割合による損害金を支払うべし。
被控訴人その余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを三分し、その一を被控訴人その余を控訴人等の負担とする。
この判決は被控訴人勝訴部分につき、無担保にて仮に執行することができる。
二、事 実
控訴人等代理人は「原判決中控訴人等敗訴の部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の供述は、控訴代理人において「控訴人等が身元保証をした岸田秀雪は肥料配給公団埼玉県支所羽生出張所長であり、原審共同被告たる柿沼延雄、小島正義等はいずれも同所員であつたが、これ等同出張所の所員は全員で昭和二十三年頃より同二十五年頃迄の長期間に数百回に亘り、数百万円に達する巨額の業務上保管にかかる肥料代金を単独又は共同して横領費消したというのであるから、この事実自体から見ても使用者たる公団側に被用者の選任監督上重大なる過失のあつたことは明かである。従つてこの事情は身元保証人たる控訴人等の責任額を算定する上に当然斟酌せらるべきものである」と主張し、被控訴代理人が右選任監督につき過失あることを否認すると述べた外原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
<立証省略>
三、理 由
原審共同被告岸田秀雪が肥料配給公団埼玉県支所羽生出張所長として勤務中、同出張所庶務係柿沼延雄、同業務係小島正義等と共謀して昭和二十四年三月以降昭和二十五年四月迄の間合計三十八回に亘り、同人等が公団の為め業務上保管にかかる肥料販売代金合計四十二万三千円を恣に横領して公団に損害を与えたこと(岸田の横領額が右金額を超えることを認むべき確証はない)につき、控訴人等が公団との間に締結した身元保証契約に基き各自これが賠償の責に任ずべく、右身元保証契約に保証すべき損害額の制限がないからとて、これを公序良俗に反する無効のものとすべきでないこと及び該損害賠償債権が同公団の解散後肥料配給公団解散令(昭和二十六年政令第二八〇号を以て改正)の規定により、大蔵大臣の承認を得て国庫に帰属したことは凡て原判決に詳細説示するとおりである。
よつて控訴人等の当審における新な抗弁につき審究する。
当裁判所の真正に成立したと認める岸甲第五号証の三原審証人深井一郎(第二回)原審並に当審証人増野一吉の各証言(但し当審における同証人の証言中以下認定に反する部分は採用せず)を綜合すれば、肥料配給公団埼玉県支所内各出張所は職制上その管内肥料配給指定業者に対する肥料の出荷配給に関する事務を処理するけれども、肥料代金収納事務を行う場合に生ずべき事故を防止する為め、業者の代金支払は一切出張所を経由せずして公団指定の金庫を通じ、直接埼玉県支所に払込むべきことと定められていたのであるが、業者の代金納入は兎角滞り勝ちの実情にあつたので、支所としては各出張所をしてこれが支払の督促に当らしめ、その際業者より出張所員に代金を交付した場合には、便宜これを受領して支所に送付することが却つて代金の回収を容易ならしめるものとしてこれを黙認していたこと、而してかように制規に反し出張所をして代金回収の業務を行わしめるに伴う弊害防止の措置としては、文書を以て又は出張所長会議を開いて訓示したり、年二回定期に会計監査を行つていたりしたのであるが、羽生出張所の代金回収成績は埼玉県下における最高位にあつた為め、昭和二十五年一月当時支所に送るべき約一千万円の現金が羽生出張所に保管されていた程多額の現金を取扱つていたに拘らず、他の出張所に主力を注いで羽生出張所に対する監督が比較的緩かな傾があつたこと、前記岸田、柿沼、小島等は公団の為めに保管する肥料代金を横領し、その犯跡を糊塗する為め配給業者に対する虚偽の売渡取消請求書を作成し一方運送店その他指定保管業者より仮空の在庫高証明書を徴して帳尻を一致せしめる等の巧妙な手段を用いていた為め、同人等の不正行為が容易に発覚しなかつたのであるが、これとても若し支所が随時抜打ち監査を行い、殊に配給業者に対し売渡高及び代金支払高の照会を為し、これと出張所の帳簿とを対照して監査すれば、直ちに不正事実を発見し得た筈であるが、かような周到な措置は嘗て一度も採られたことがなかつたこと等の事実を認めることができる。以上認定の事実によれば右公団埼玉県支所が末端機関たる羽生出張所をして職制に反し業者より肥料代金を受領し、保管することを容認し乍ら、所長岸田秀雪以下各職員の不正行為防止の為めに採つた監督手段は適切にして十分であるとは到底いい難く、幾分の不行届の謗りは免れないのであつて、かかる事情は身元保証ニ関スル法律第五条の規定により、身元保証人の責に任ずべき損害賠償の額を定めるに当り当然斟酌せらるべきであるから、控訴人等のこの点に関する抗弁は理由があり、当裁判所は該事情を斟酌の上、控訴人等の賠償責任額を金三十五万円の限度に止めるのを以て相定と認定する。
然らば控訴人等は右公団の承継人たる被控訴人国に対し、各金三十五万円及びこれに対する本件訴状送達後たる昭和二十六年十一月四日以降完済まで年五分の割合による損害金を支払う義務を負い、本訴請求は右範囲においてのみ正当として認容し、その余は失当につき棄却すべきところ、原判決は以上とその趣旨を異にするのでこれを変更すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条、第九十三条、第九十六条を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条第一項を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 薄根正男 岡崎隆 奥野利一)